第二話

第二話 〜ジラ捜索〜

 ジラが生き残っていた。この紛れも無い事実は世界中に渡り、世界を恐怖のどん底に陥れた。
ジラの恐るべき繁殖力は、最早世界各国の既知の事実であり、ジラの繁殖を許してしまえば、たちまちジラの子孫が世界中に広がってしまうのだ。
あの亜米利加軍が立った一匹でも苦戦していたあのジラが、もし、一年に数千匹単位で増えてしまったら、確実に世界は破滅してしまう。
その危機を食い止めるために、各国はこれまでで最大の調査を行った。特に、出現した亜米利加では、調査団を、太平洋中へと派遣した。
その中に、タトプロス達、98年時にジラ対策に全力を尽くした者達が集められた。彼等は、調査団の総指揮という立場で参加している。
総指揮を行うメンバーは生物学者ニック・タトプロス博士、古生物学者エルシー・チャップマン博士、ロボット学の権威、メンデル・クレイブン博士の3名である。
この三人はまず、太平洋上を航行する船上で作戦会議を行った。
タトプロス「まず、ジラの進行方向を予測したいと思う。今回のジラは、ロサンゼルスの東約45q地点に出現し、ゴロザウルスと交戦。
        その際に口から炎を吐いている。」
チャップマン「以前のジラからは考えられないわね。出来ても溜め息だったわ。それも特大のね。」
タトプロス「あぁ、そうだ、ジラは一度の繁殖で大量の子孫を残すだけでなく、その際に進化する。飛躍的にだ。
       このことが分かった以上、早急にジラを発見しなければならない。」
クレイブン「それなら任せてよ。僕はこの6年間、多目的作業ロボットを開発していたんだ。これならジラの探索も簡単さ。」
チャップマン「へぇ、凄いじゃないのメンデル。で、そのロボットは何処にあるの?」
クレイブン「あぁ、今呼ぶよ。」
そういうと、クレイブンは電子辞書のような操作機を取り出し、何やら操作を始めた。
そうすると、通路の奥からおおよそ格好いいとは言えないロボットがカリカリと音を立て、排気口から黒い煙を吹かしながら、クレイブン達の所へとやって来た。
クレイブン「どうだい!カッコイイだろ?ナイジェルって言うんだ。これならジラなんてすぐに見つかるよ!…ってあれ?」
クレイブンが自信満々にナイジェルの紹介をしていたが、二人は呆れたような顔をしている。
チャップマン「クレイブン…あなた、こんな物で本当にジラを見つけられると思ってるの!?この太平洋はそんなに狭かったかしら?」
クレイブン「何言ってるんだよ!いいかい?ナイジェルはねぇ!三つの最高感度のカメラ、二十五のセンサー、
       そして、陸、海、空、どの状況にも対応できるように、三タイプに変形可能なんだから。これだけあれば、ジラなんてあっという間さ!ねぇ、ニック?」
タトプロス「あ、あぁ…そうだな。で、これが、どういう風にジラの居場所を突き止めてくれるんだ?」
クレイブン「まず、6年前に出現したジラの死体から、生体データは取ってあるから、それを元に、ジラの出した排泄物等の痕跡を追っていけばいいんだよ。」
チャップマン「そんな簡単に上手くいくかしら?そんなに排泄物が効率よく流れ出すかしら?」
タトプロス「まぁ、それはやってみないと分からない。明日にでも試してみよう。」
      「あぁ〜ら、楽しそうねぇ。」
船室のドアが開き、女性の声が聞こえた。タトプロスはすぐに振り返った。そこにいたのは、よく見慣れた女性だった。
タトプロス「オードリー!?君は一体こんな所で何をしているんだ!?」
船室に入ってきた女性はオードリー・ティモンズ。
彼女もまた、6年前のジラ災害に巻き込まれた一人であり、その時にはジラがマジソン・スクエア・ガーデンに卵を産みつけた事を報道した。
その功績が認められ、カメラマンの「アニマル」ことビクター・パロッティと共に「奇跡の報道者」として、その後売れっ子レポーターとなったのだ。
その際に彼女はタトプロスに再会し、再び恋に落ちた。
ティモンズ「あらニック、何しているんだとは心外ね。これでもキチンと軍の許可を取っているのよ。ねぇ、アニマル?」
アニマル「あぁ、だがそのおかげで、嫁に殺されかけたよ。『また死に行くのか!?』ってね。」
タトプロス「そんな事はどうでもいい。何故軍がこの取材を許可した?」
ティモンズ「さぁ?」
タトプロス「さぁ?って…通常、軍がこんな取材、許すわけないだろう。」
ティモンズ「あら、この調査に米軍は護衛以外には関わっていないわよ。」
タトプロス「え?そうなのか?」
チャップマン「ニック…知らなかったの?ってそれ以前に、他国の領海に進入するのに軍艦なんか使えるわけがないでしょう。」
ティモンズ「えぇ。だから、私達のこの密着取材も許可されたってワケなの!」
そう言って、ティモンズはタトプロスに抱きついた。
チャップマン「おぉ〜お、お暑い事ですね。お二人さん!」
チャップマンは二人をたきつける様にして自分の船室へと戻っていった。
クレイブン「え?エ・エルシー、待ってよぉ〜。久しぶりに会ったんだからさぁ。」
クレイブンは、まだ6年前からチャップマンの事を諦めていないらしく、ドタドタと、その太った体を揺らしながら、走っていった。
しばらくすると、クレイブンの激しいくしゃみが聞こえた。どうやら、アレルギー体質は変わっていないらしい。
アニマル「…さ、さて、俺も行くか。オードリー、そのミミズ男と仲良くやっとけ。」
そう捨て台詞を吐くと、アニマルも船室へと戻っていった。
タトプロス「あ、あの、元気だったのかい?」
ティモンズ「あら、久しぶりに会ったって言うのに、ずいぶん心無い挨拶です事。それが2ヶ月振りにあった恋人の言う事?」
タトプロス「じゃあ、どうやって言ったらいいんだよ?」
ティモンズ「そ、それは………とにかく、もう少し気を遣っても良かったんじゃない!」
タトプロス「悪かった。確かに僕も配慮に欠けていた。」
ティモンズ「んふっ、いいのよ。」
そう言って、タトプロスとティモンズは軽く口付けを交わし、自らの船室へと去って行った。
 翌日、クレイブンが開発したナイジェルを使い、ジラ探索を開始する事にした。
勿論、タトプロスたちが乗っている船以外にも、調査船はあり、その調査船もソナー探査など、全力を挙げて探索している。
ナイジェルには、その探索の情報も入ってきており、そこから割り出した場所、ハワイ西南沖約100qの地点で調査が行われていた。
クレイブン「さぁ…いくぞ、ナイジェル。キチンと情報を掴んで来るんだぞ。」
 そういうとクレイブンはナイジェルを繋いでいたワイヤーを放し、ナイジェルを海中へと降ろした。
ニックたちは、船室へと戻り、ナイジェルのメインカメラから送られてくる画像を食い入るようにして見ていた。
ナイジェルのカメラからはただただ暗い海底が写っていた。途中、グロテクスな深海魚が写り、アニマルとティモンズが嫌そうに、声を上げた。
そんな時間が一時間過ぎようとしていた。
ティモンズ「ねぇ、クレイブン、本当にココでよかったの?もう一時間よ。これだけ探しても何の痕跡も発見できないんじゃ…。」
クレイブン「大丈夫。それに『まだ』1時間だ。諦めるにはまだ早すぎるよ。」
タトプロス「そうだ、まだまだ諦めるには早すぎる。クレイブン、進路をもう少し北寄りにしてみよう。」
クレイブン「分かった。」
 しかし、それから30分ほど経ったが何も見つからなかった。一同が落胆しかけたその瞬間だった。
ナイジェルに備えられたガイガーカウンターが突如反応したのだ。カメラには、不自然に陥没した海底が写っていた。
その脇には、食い散らかされたシロナガスクジラの死体があった。
クレイブン「ほら!きっとこれがジラの痕跡だよ!」
チャップマン「そぉかしら?これだけじゃジラとは言えないわ。第一、ジラはマグロを食べていたんじゃなくて?
       クジラは食べないはずよ。胃の内容物からも無かったでしょう?」
タトプロス「しかし、これがジラじゃないとも言えない。もしかしたら、本物のゴジラなのかもしれない。」
チャップマン「本物の…」
アニマル「ゴジラァ!?」
 一同、とても驚いた顔をしてタトプロスを見つめる。タトプロスはいたって冷静な顔をして続けた。
タトプロス「あぁ、そうだ、50年前に日本に現れ、その後も日本に二度、上陸した恐るべき巨大生物だ。」
ティモンズ「で、でも、ゴジラはもう40年も現れていないわ。出現するにしたって…」
タトプロス「しかし、可能性が無いわけではない。あるいは、ジラとの戦闘後、いずことも無く消えて言ったゴロザウルスとかな。」
クレイブン「でも、ゴロザウルスに放射能反応は無かったよ。」
タトプロス「そうか…じゃあ、ゴロザウルスの可能性は無いか。とにかくもうすこし調査を進めよう。クレイブン、放射能反応に沿って進んでくれ。」
クレイブン「分かった。それじゃあ、この場所から北西だね。」
 クレイブンが操作機を操作する。ナイジェルのメインカメラが海底を移動する映像を映し出す。そしてまた30分もしない間にナイジェルの警報機が鳴り出した。
タトプロス「どうした!?クレイブン!?」
クレイブン「分からない!後方から、何か大きなものが近づいてきているんだ!」
チャップマン「何よそれ!?潜水艦!?」
クレイブン「そんなはず無いよ。潜水艦でこんな早く動けるヤツは無いよ!」
ティモンズ「じゃあ一体何よ!?」
アニマル「それが何か分からないから皆うろたえているんだろ!」
 一同がうろたえている間に、ナイジェルのメインカメラから送られてきた映像が揺れ出した。そして、画面が真っ暗となった。
しかし、ナイジェルの機能はまだ生きているらしく、スピーカーからは、メキメキと、ナイジェルの機体がきしむ音がした。
そんな時間がしばらく続いたが、画面が少し明るくなった。画面には、幾本もの牙が映し出されていた。
どうやら、ナイジェルを銜えていた巨大生物が口を多少開けたらしい。しかし、その時間も長くは続かなかった。
画面が青白く光ったかと思うと、画面が真っ白になり、再び闇が訪れた。
クレイブン「ナイジェール!あぁ、これ作るのに金が物凄く掛かるのに…」
タトプロス「クレイブン…。」
 タトプロスは泣きそうになっているクレイブンの肩に手を置く事しかできなかった。その時、別のコンピューターから音がした。
チャップマン「どうしたの!?」
クレイブン「あ、放射能反応が出たときからずっと、計算させていたんだ。この放射能反応は一体何処に進んでいるのか。
       一番ジラが上陸しそうな場所を予測させてたんだ。」
 その言葉を聞いて、一同はそのコンピュータのモニターの前に集まった。そのモニターに写っていたのは、極東の小国であった。
タトプロス「日本・・・・・・・・」

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