第3話

第3話〜「照和」29年 日本〜

 ジラが生きていたという知らせに一番危機を感じたのは大日本帝国――――日本であった。
日本はこの50年、ゴジラを初めとする巨大生物の災害に悩まされていた。98年のジラ出現時も、日本政府はすぐさま協力を表明した。
しかし、亜米利加政府は、その協力を断った。その真意はいまだ不明であるが、ジラを倒した際には、すぐさま死体の検死の調査団の派遣を要請した。
恐らく米軍がジラの能力を見くびっていたのではないかと推測されている。日本政府は今回のジラ生存の報を聞いた際に、すぐさま領海内の警備を強化した。
それは、国家としては異例の速さで決定した。それほどまでに日本と言う国は巨大生物を恐れているのだ。
しかも、この2004年は、最初のゴジラ出現からちょうど50年の節目の年であった。
その事もあり、国内では、様々な場所で慰霊祭等、様々な催し物が行われる予定である。
また、催し物だけでなく、TV、新聞、ラジオ等のマスメディアでも様々な特集が2003年末から企画されていた。それは過敏過ぎともいえる反応であった。
何故、日本全体がここまでの反応を示すのかと言うと、この日本は、ゴジラ以前にも様々な人外の物体に平和を脅かされているのだ。
 文明開化からこの日本は凄まじい発展を遂げていた。そのうちの一つが、蒸気技術の発展である。
その発展は「明冶」から「太正」になってから爆発的となる。
道路には人力車のほかに蒸気自動車が増え、地下には地下鉄、地上にも蒸気鉄道が走っていた。そして、人々に明るい笑顔があふれていた。
そんな時代に約300年の時を越え復活したのが、「降魔」であった。このときには辛くも撃退されたが、降魔はその後幾度も日本を襲った。
そして日本はその脅威を全て退けてきた。
 しかし、最後の降魔が現れてから約30年・・・・・日本はこれまでで最大の脅威に見舞われた――――ゴジラである。
ゴジラは米国の核実験によって生まれた。この核実験は世界で始めて行われたものであり、人類のエネルギーの新たな希望となるはずであった。
だが、実験の伝達が遅れ、その大爆発に巻き込まれた漁船があった。「第5福竜丸」である。
第5福竜丸の乗組員は目も当てられぬほどの状態になっていた。あまりの高熱で皮膚がが剥がれ落ち皮膚としての役割を果たしていないのだ。
外見もそうであるが、体の中まで、無残な事になっていた。核実験に使われた放射能には、人を生と死の狭間で幾年にも苦しませる毒があったのだ。
第5福竜丸の乗組員はその後何年にも苦しむ事となってしまった。
しかし、全ての生き物を死に至らしめるモノ――――放射能。その力を吸収し、我が物としたのがゴジラであった。
ゴジラは帝都・東京を蹂躙し、そして、撃退された。
撃退の様子は壮絶なものだった。一人の天才科学者がその命と引き換えにゴジラを撃退したのだ。
その科学者の名は、「芹沢大助」。酸素の研究をしており、その途中に、液体中の酸素破壊剤「オキシジェン・デストロイヤー」を開発した。
しかし、それを開発した途端に、ゴジラが出現したのだ。芹沢は、ゴジラの被害の実情を打破するために「オキシジェン・デストロイヤー」を使用したのだった。
その際芹沢は、オキシジェンデストロイヤーの悪用を恐れ、その命と引き換えに、ゴジラを辛くも撃退したのであった。
 しかし、そのゴジラの出現がきっかけとなったのか、世界中に巨大な生物が出現したのだ。
この事態を受け巨大生物達を撃退するために、各国が協力し合い、「国際巨大生物対策委員会」を設立した。
国際巨大生物対策委員会――――International Huge living thing Task force(略称IHT)は、巨大生物の対策のために存在する組織である。
そのため、もし再び欧州大戦のような世界を巻き込む戦乱が起こっても、IHTは、一切関係しない事になっている。
IHTの本部は、巨大生物対策に関して、常に世界の先を行く、日本、東京郊外に置かれている。
   「・・・・・・・・これが、この世界の巨大生物対策の歴史である。」
がっちりとした体格の男が、黒板を指差しながら、話を進めていく。
男の名前は大西弘司(おおにし ひろし)。「私立坂本学園高等学校」の教師である。
今年で四十八歳になるが、柔道部の顧問を務めており、本人自身も関東で十本の指に入るほどの実力である。
世界史を専門としており、現在もその授業中である。
大西「先月末、前世紀末に米国を襲ったジラの生き残りが発見されたと言う報道があったが、いまだ発見されていない。」
そう語ると、チャイムが鳴った。
大西「お、もうこんな時間か。えぇ〜っと、次の時間は…LHRか。じゃあ、もう始めてもいいぞ。なにせ研修は来週だからな。」
大西の言う研修とは、私立坂本学園高校では、卒業生達の卒業前に研修と言って、社会化見学と同じような事をさせている。
研修と言うが、ある意味名ばかりと言った風があり、研修場所は、行楽地と言う事が多かった。
しかし、今年は違った。学園の創立者がゴジラの被害を直接体験しており、今年度は、若い人材に巨大生物の被害を深い理解を示させるということで、
「日本の巨大生物の被害と、その対策をレポートにまとめる」という課題が出され、それに基づいて見学場所に行く計画を生徒自身で立てている。
生徒達は計画がほぼ完璧に立っているらしく、談笑している生徒がほとんどだった。
その中の一グループだけ、頭を抱えているようなグループがあった。
   「なぁ、どうする?ウチらだけだぜ、まだ決まってないの」
   「しょうがないじゃないの、松田君が認めないんだもの。」
松田と呼ばれたその生徒――――松田竜明(まつだたつあき)は、なんとも渋い顔をしていた。
その周りにいる生徒達――――片川春美(かたがわはるみ)藤山達也(ふじやまたつや)山口涼子(やまぐちりょうこ)久野亜紀(くのあき)小口香(おぐちかおり)。
その五名は松田をどうにか説得しようとしていた。
藤山「なぁ、松田さんよ。そろそろ折れてくれよぉ。」
片川「そぉだよ。松田さん、自分で行ってたりするんだろ?」
松田「こんな所、金がなくて行けねぇよ。電車賃だけでパァだよ。パァ。」
久野「だから、このときに行くんでしょう?」
小口「そうよ。電車賃だって学校で出してくれるんだから。」
松田「あれ?交通費って学校で出してくれるんだっけか?」
藤山「何だよ?忘れてたのかよ?馬っ鹿だなぁ。それでなきゃこんな贅沢なプラン組んでないって。」
松田「なぁんだよぉ〜。それならそうと早く言って…って、藤ぃ、いま『馬鹿』って言ったか?」
藤山「い、いぃや、まさか、松田さんにそんなこと言うわけ無いだろぉ?」
松田「そぅか・・・・・・・って、そんな古典的なだましに引っかかるわけないだろ!殴る!」
藤山「わー!待て!待てったら!」
松田「いぃや!待たねぇ!」
山口「やめなよ、まったく…じゃあ、計画はこれで提出しちゃっていいのね?」
松田「OK!交通費学校持ちなら文句なしだよ!」
 松田は先ほどの難しい顔はどうしたのか、笑みで答えた。そんな松田を、藤山が物陰に引き寄せた。
藤山「おい、松田さんよ。」
松田「ん、何だよ?。」
藤山「おい、みぃも来いよ。」
片川「何だよ、松田さんだけじゃなくて俺もかよ。何だよ何だよ。」
藤山「まぁ、話は松田さんにあるんだけどさ。」
片川「だったら、俺いらないじゃん。」
藤山「まぁまぁ、いいから。んでさぁ、松田さん、いつ山口さんに告るんだよ?」
松田「はぁ!?ば、ば、ば、馬鹿ぁ!何言ってるんだお前さんは!?」
 怒っているようではあるが、松田の顔は真っ赤になっている。
片川「あぁ、その話か。覚えてるぞぉ。去年の夏休み、『ちょっと好きかも知れない』って言ってたじゃんか。」
 片川と藤山は意地悪そうな顔をして松田の顔を見つめている。松田は、顔がさらに真っ赤になっている。
松田「ば、馬鹿!『好きかも知れない』だろ?今は気ぃ変わってるよ!」
藤山「あ、そう・・・・・・・・ならいいんだ。実は俺も結構好きだったりするんだよねぇ〜。」
片川「実は俺も・・・・・・。」
松田「えぇ!?嘘ぉ!?」
 松田が素っ頓狂な声を出した。その声を聞いた片川たちは、ニンマリしていた。
片川「へっへっへぇ〜ん。やぁっぱりなぁ、好きなんだろ?」
松田「わーった。分かった。認めりゃあいいんでしょ?好きだよ…
急に松田の声が小さくなった。
片川「え?何だって?よく聞こえねぇなぁ。」
松田「だ〜か〜ら〜、好・き・で・す・よ!
藤山「あれぇ〜?今の言葉、山口に聞こえたんじゃね?」
 それを聞いた松田は急にうろたえた。
松田「え!?嘘!?マジ?ヤバイ!」
片川「プククククク、嘘だよぉ〜ん。」
松田「そうか…それは良かった…では、殴る!」
片川・藤山「ってぇ〜!何すんだよ!」
松田「当たり前だろうが!人の傷口に塩を塗りこむような事しやがって!」
片川・藤山「いや、俺達はワサビのつもりで…」
ゴスッ!凄まじい音がした。教室に居た生徒、教師皆が音のした方に振り返った。
松田「あ、あのさ、なんつうかなぁ…すいません…うるさくて…。」
大西「まぁたお前か…。まぁ、程ほどにな。」
松田「はい、すみませんでした。」
藤山「松田さんって、いつも教師にヘコヘコしてるよなぁ。こんなに背が高いのに。」
 そういった藤山は松田を見上げた。松田の身長は180cmは超えており、体格も悪くない。
それなのに、松田は腰が低く、時には後輩にもお辞儀を繰り返しているような人間である。
松田「うるせぇなぁ…いいじゃねぇかよ。別に。」
片川「いや別に、悪いなんて全然言ってないよ。でも、なんで、あんなに腰が低いン?」
松田「いや何かさ…俺そんなに偉ぶれないんだよ。だから腰が低くなっちゃって…。」
藤山「だからお前は彼女とか出来ないんだよ。」
松田「何だよ、なんならお前は出来た事あるのかよ?」
藤山「あるよ。」
松田「うっそ…そうか、そうだよなぁ。もう高3だもんなぁ…。」
片川「な、泣くなよ…って、泣いてないか。」
藤山「ま、まぁ、研修まであと一週間だ。それまでに頑張れ。それ以降になると、機会がなくなるからな。」
そうして、1週間が過ぎた。

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